金沢家庭裁判所 昭和52年(少ハ)1号 決定 1977年6月03日
少年 M・T子(昭三一・一一・一生)
主文
被申請人を昭和五二年一二月三日まで継続して、特別少年院に収容する。
理由
被申請人は、昭和五一年六月四日窃盗等保護事件について、当裁判所において特別少年院送致の決定を受け、明徳少女苑に収容されていたものであるが、昭和五一年一一月一日をもつて成人に達し、昭和五二年六月三日送致後一年の期間満了となるところ、同年五月九日前記少女苑々長○○○○から、被申請人の苑内成績は当初規律違反行為が見られるなど好ましくない状態にあつたが、最近では矯正教育効果があがりつつある段階にあり、保護環境の調整の必要及び処遇の最高段階に至つていないこと等の理由により、本件収容継続申請がなされた。
よつて審案するに、前記○○○○、保護者○○○○、保護司○○○○、被申請人の各供述を総合すると、被申請人は再入苑ということから、当初は処遇に積極的に参加する姿勢を示さず、違反、処分を繰り返し、二級上に進級するのに六ヶ月を要するという状態であつたが、昭和五一年一〇月一三日より単独処遇に切り替えられてから除々に苑内での生活規律に順応しようという意欲が見られるようになつたこと、被申請人の場合、意志が弱いことから目標に対し持続して努力することが出来ず、緊張が永続しないこと及び成長過程から生じた被愛欲求が強く、周囲への同調傾向が強いことが特に問題となるものであるが、前記単独処遇の措置をとられたことを契機として、被申請人は右についての自覚が出来あがりつつあり、改善の方向に向かつていること、被申請人が現在の生活態度を持続していくならば、昭和五二年七月には一級上へ進級し、同八月には仮退院が許されるものと予測されること、退院後保護者たる父親には勤務の都合上十分な監督が期待できず、家庭環境には若干問題が残ること等の事実が認められる。
以上の諸事実に照らせば、被申請人が非行に陥つた原因である資質的負因の自覚、矯正にはなお相当期間が必要とされるものと認められ、一般社会での健全な適応性を身につけされるには被申請人に対し更にその収容を継続して矯正教育を施すのが相当と思料される。次にその期間について考えるに、少年の矯正教育の目的は、対象少年の性格、生活態度などを改善して、その犯罪傾向を除去することにより、健全な社会生活に適応しうる能力を身につけさせることにあるが、このような目的は一般社会から隔離された施設内での教育のみによつて実現されうるものでなく、これに引き続く一般社会内での専門的指導、援護と相まつて、完成される場合も十分予想されるものであつて、かかる場合出院後の適切な処遇段階を欠くことにより再犯に陥る危険が予想されるにかかわらず、これを放置することは、収容継続制度の趣旨に沿わないものと考えられる。従つて不当に少年の自由を拘束することにならない限り、収容継続にあたつては、仮退院後の保護観察期間も含めて収容継続期間を定めることは許されるものと考えられ、本件については前記のとおり、昭和五二年八月には仮退院が予想されるが、その後なお専門的指導、援護が必要と認められ、その期間は被申請人に対する収容期間満了日の翌日である昭和五二年六月四日から起算して六ヶ月間、すなわち同年一二月三日までとするのが相当と思料する。
よつて少年院法一一条四項により主文のとおり決定する。
(裁判官 沼里豊滋)